フェルミ推定がなぜはやっているのか?

 今、推定と言えばフェルミ推定。名前の通りハーフである。大人気。一部コンサル分野では滝川クリステルをはるかにしのぐ人気である。いったいなぜだろうか?それはいうまでもなく、Googleマイクロソフトの入社問題に頻出したという評判がたったからだ(実際、事実らしい)。フェルミ推定フェルミさん。皆さん知っているように1900年初頭の天才理論物理学者である。自分自身が大学で理論物理に片足を突っ込む機会があったものだから、どちらというと、統計力学の「フェルミディラック統計」の名前で知っていたのであった。
 そのフェルミさんが非常に大きな物理量を見積もるために考え出した考え方がフェルミ推定である。フェルミ推定は問題を大局的にとらえ、それをいくつかのもれのない観点で要素に分解し、要素ごとに大胆な仮定・推定で値を導出し、それらを掛け合わせて見積もるという手法である。掛け合わせるというのがミソである。というのも多くの非常に大きな物理量というのは「足し合わせる」という形で見積もることができない。なぜなら、足し合わせるというのは「問題を部分に分割すれば解決が可能」という前提に立っているのだが、分割はあくまで同じクラスの議論をすることにはかわりなく抽象度を上げるわけではない。そのため、仮定や推定に必要な「物事を捨象する」ということには全く貢献しないからなのである。
 フェルミ推定は自身がアイデアを出したフェルミ・パラドクスの解決手法として先鞭をつけたドレイクの式で応用されている。フェルミ・パラドクスとは「宇宙人は広い世界にはどうみてもいるだろ?」vs「けど、宇宙人を見つけたって話はX-filesの世界でしかしらないし、winnyで官僚が証拠が流出させて2chで祭りっていう話もないしさ」という理論と事実の狭間のパラドクスであり、ドレイクは「じゃあ、いったい宇宙人はどの程度地球の人たちと会い証拠を残しそうなんだろう?」という値をフェルミ推定で見つけたのだ。実際、この推定の考え方を初めて見た時はすげー、天才しかできないと思ったし、フェルミ推定という手法も宇宙や一方素粒子を相手にするような壮大な対象にのみ使えるものだと思った。#ちなみに昨日ノーベル賞をもらった南部さんはフェルミ研究所というところで研究をしている。
 しかし、今はあらゆるビジネスシーンでフェルミ推定が注目されている。日経アソシエとかプレジデントに連載されそうな雰囲気がそれを証拠づけているといえるだろう。じゃあなぜなのか?これは、カッコよくいうと、「インターネットの広がりによるコミュニケーションのグローバル化や、金融工学の発展によるお金の流動性向上によって、すべての物事が時間軸・空間軸の観点で不確定性と不確実性を究極的に増してきた」ためであると思う。つまり、昔は利用ユーザの値が見積もれないなんてシステム開発やサービス事業は皆無であったろうし、自分が今後許すことのできるリスクのぎりぎりのラインでの勝負し続けれるようなリスクの保障ができる投資はなかったはずだ。それがいまインターネットと金融工学に代表される空間的・時間的な壁を取っ払う仕組みのため、その壁が取っ払われた対象が壮大になり、結果一段上の観点での把握がビジネスに必要になってきそうだとみんなが思ったからであろう。ただ、対象が壮大になった結果、ハイリスク・ハイリターンのビジネスをある程度手堅い期待値が期待できるビジネスに制御できるかのような幻想を持たした結果、マクロ的にはその中でハイリスク・ハイリターンビジネスに勝ち残ったものとそうでないものの格差社会を生み、ミクロ的には同時に史上3番目の下げ幅を記録して俺の人生設計を大きく狂わす事態を生みだしたのだと思えば一概に喜ばしい話ではない。
 ま、そんなわけでフェルミ推定への注目は今後も高いと思う。ただ、最後に言ったようにフェルミ推定が求められる状態と格差社会が生まれる状態は同じようなものなので、いかがなものかという朝日新聞的なまとめで終わってみる。

地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」

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