銀行業界におけるデータ分析: 価値を認識する時が来た

銀行業界におけるデータ分析: 価値を認識する時が来た 

様々な銀行で、データ分析をビジネスに活かしている。たとえば、セールスを強化すべき顧客の特性把握や、顧客に対する値引きの妥当性検証、詳細な顧客セグメントの定義における成功例がある。しかし、多くの銀行で、その成功による収益は既存のビジネスによる収益に比べると非常に小さい。データ分析は必要ないのであろうか。

 そうではない。潜在的な有用性は高い。その理由は3つあり、1. データ分析アルゴリズムの発達やコンピュータパワーの向上といった技術の進歩、2. 銀行に襲い掛かる激しい競争によるイノベーションの必要性、3. 銀行のデジタル化による扱えるデータの増大、である。

 よって、銀行が真の"デジタルバンキングを達成するために、いかにデータ分析を戦略的に組織的にビジネスに取り入れ、その収益を拡大できるのかについて論じる。

 データ分析が大きな収益を生むまでには、まず、データ分析により伝統的なビジネスを拡大し、次に新しい成長分野を見つけるというアプローチをとるべきである

ここで伝統的なビジネスの拡大とは次のようなものである

  • トランザクションデータや取引データを用いた顧客のより詳細な分析
  • 処理や意思決定の生産性向上。コンピュータの処理速度向上のためのコード最適化や個々のATMに保持すべき現金量決定などにデータ分析を用いた例がある
  • リスクコントロールの改善。コンプライアンスに求められる情報ソースの改善や正確なレポートの迅速な作成。
  • オムニチャネルでアクセスする顧客の動線をリアルタイムに集積

そして、次に新しい成長分野や新しいビジネスモデルをみつける。顧客データを分析できる能力を基にテレコムや流通などのパートナーを見つけ新しいビジネスを見つけることができる。これは"Fintechを超えたFintech"と言えるであろう。銀行は”データカンパニー”として、従来の銀行業では考えられなかった収益が得ることができるのである。

http://www.mckinsey.com/~/media/McKinsey/Industries/Financial%20Services/Our%20Insights/Analytics%20in%20banking%20Time%20to%20realize%20the%20value/SVGZ_Analytics_in_banking_ex1.ashx

 実際、ほとんどの銀行がデータ分析に投資をしている。しかし、多くが苦しんでいる。彼らは”パイロットはうまくいったが、その後停滞している”のである。データ分析の基盤を持ち、最新のデータ分析アルゴリズムを持っているにもかかわらずである。このような銀行の多くは簡単いうと、スケールの小さい取り組みをバラバラに行っているのである。多くの銀行はこのような問題を生じがちである

  • データ分析の潜在性を定量的に詳細に見積もっていない
  • 初期にビジネスリーダの興味がない
  • パイロット”ばかり実施して、実案件に広げようと試みない
  • データの品質や量にばかり注目し、それらで何をしたいのか、何を得たいのかを考えない
  • データを守りがちなビジネス部門と協力ができていない
  • 十分なデータ分析のインフラや人材を持っているのにプロジェクト単位での分析しかしてない
  • 適切な問題設定ができていない。当然賢いアルゴリズムも答えを出せない。

こういった問題を避け、 大きなビジネスを得るためには、CEOが二つの強みを持つようにリーダシップを発揮する必要がある。すなわち、組織変革と強固な分析組織である。会社の通常の仕事にデータ分析が入り込むために、この二つは欠かせない。

そして、このリーダシップのもと、戦略を実行するためには、以下の3つの要素が欠かせない。

一つ目は、業務においてデータ分析を使うというマインドセットである。具体的には下記のような考えを持つ必要がある

  • データ分析には、意味のある問いが重要である。データではない。
  • 大きな問題を解こうとせず、小さな解決を積み重ねる。
  • データの境界にこそ深い洞察が潜んでいる。様々な組織に分散されているデータの関係性に注目せよ
  • 検証のサイクルを回す。 トライアンドエラーが重要である。
  • 扱いやすさは重要。 分析ツールは使いやすいものを選べ。ダッシュボードのような可視化ツールも重要である
  • 分析結果を使わなければ意味はない。 データ分析で得られる結果はブラックボックスであり説明できるものではないかもしれない。それでも使うつもりでいなければならない
  • データ分析はチームスポーツである。 分析屋だけでもだめで、開発者、デザイナー、運用者が協力してはじめて意味のあるものが出来あがる

二つ目は、ユースケースの優先づけである。データ分析をすることにより、確実に改善が期待できそうなユースケース選択すべきではない。それより、分析によって、非常に大きな成果につながるであろうエリアに注力すべきである。こうすると、「パイロット・トラップ」に陥らない。

「三つ目は、ビジョンを持つことである。その課題が解決されれば、業務に大きなインパクトがあるものはなんであろうか?その課題解決に向かって、下記の図のような5つのステップで進んでいくべきである。

http://www.mckinsey.com/~/media/McKinsey/Industries/Financial%20Services/Our%20Insights/Analytics%20in%20banking%20Time%20to%20realize%20the%20value/SVGZ_Analytics_in_banking_ex2.ashx

 最後に、銀行全体がデータ分析の力を活用する組織になるためには、銀行がまるで人の神経システムのごとく動くようにならなくてはいけない。その中心、つまり脊椎の部分を担う"データ分析COE"を形成する必要がある。COEでは、以下の機能が求められる。

  • データ管理、先進的な分析、利用の促進を行う役割と責任
  • Innovation Labのようなユーザがデータ分析を身近に感じるようなチャネル
  • 求められるデータサイエンティストの絶え間ない供給
  • 標準的なデータ管理プロセスの提示
  • データ品質の完全なコントロール

トップ50の銀行のうち90%が先進的なデータ分析を行っている。しかし、多くは一部成功しているものの、全社的な取り組みになっていない。しかし、2,3の銀行は全社的に成功している。この差はこの2,3年で取り戻せない差になっていくであろう。

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