これまでの「トラウマ」の話をしよう
これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学
- 作者: マイケル・サンデル,Michael J. Sandel,鬼澤忍
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/05/22
- メディア: 単行本
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未だに夢にも出てくる光景がある。小学五年生の時。4月、東京から大阪に引越し新しい小学校に通っていた。まあ、そういう転校生の宿命か、結構いじめられた。家から持ってきた雑巾を掃除の時に大のトイレに突っ込まれそれを頭に投げつけられたり、いろんなモノを隠されたり破られたり。そんなことをされていたが、実はそういうのを全く気にすることができない、変な小学生でもあった。なんかやだなあぐらいであまり深く考えずにいた。今の息子が周り我関せずで好きなように遊んでいるのを見ると似ているなあ、けど大丈夫かなあと思う。
で、そんな中,S園君という仲の良い友達がいた。彼は自分が転校する前からのいじめられっ子だった。得てしてそういう子が転校生に最初にアクセスしてくるのは世の常かもしれない。自分にも最初はその子だけが親切にしてくれて遊んでくれた。遊んでいるうちにまあ彼がいじめられている理由はわかった。彼は貧乏さのゆえにばい菌と呼ばれるにふさわしい見た目や言動をしていた。仲良くなったあと、彼の家に遊びに行ったが、彼の家は空き地に立っていたほったて小屋でに近い作りで今だったら行政指導で潰されても不思議ではない感じであった。まあ、ともかく彼とは仲がよく彼の家に遊びに行っていた。
で、彼の誕生日が近づいていた。そこで、自分は彼の誕生日会に誘われた。5,6人の小学校の友だちが来るという。誰が来るんだろうと思ったが、もちろん自分は行くと約束した。
当日、早速プレゼントを持って彼の家に行った。行くと彼のお母さんが迎えてくれた。部屋に入ると、貧乏な感じなりに、お母さんが必死にであろう、飾り付けや料理や子供同士のゲームのために用意したなんかのグッズが所狭しとテーブルに並んでいた。自分も含めて7,8人の友だちの名前が書いてあったプレートがあり、来るはずのみんなを待つテーブルが用意されていた。そのテーブルは楽しさを表現していた。
で、彼と自分で、残りの友達がくるのを待った。自分は用意されていたトンガリ帽子をかぶりながら。けど、誰も来ない。そうしているうちに、理解した。彼は友達を実際によんだのかよんでないのかはわからなかったが、現実くるはずのない友達の名前を書いていたらしい。結局お母さんに泣きながら、そんな事情を伝えていた。その様子は良く見えなかったがそうだと思う。自分は、ひとり楽しそうなものがいろいろあるテーブルを前に待っていた。とんがり帽子をかぶりながら。
しばらくして、多少落ち着いたらしい、彼とお母さんがやってきて、まあなんかの理由で自分と彼だけになったらしいことが告げられた。努めて明るく告げられた。それからは楽しい感じで3人で彼の誕生日を祝った。なんか違和感はあったが。あまりそういう状況をうまく捉えられない自分にはまあ楽しかった。プレゼントの交換もした。彼からは単なるトンボの鉛筆三本とガチャガチャで出てきそうな消しゴムをお母さんのつくった紙で包んだものをもらった。
そして、帰りについた。帰る際にはすべてが残っていた。お母さんがつくってくれた7,8人分の料理も安上がりだろうが華やかな飾り付けも子供同士のゲームに使うものも。しかし、すべてが無駄になった。帰り際のお母さんと彼の顔は務めた明るかったが、本当の気持はどうだったんだろうか?今自分の子どもがそんな扱いを受けたとして、自分の妻の気持ちを考えたら張り裂けそうになる。
帰り際であろうか、彼とお母さんの顔が浮かんで急になんかとんでもないぐらいさびしくなった。 こんな状況が、彼がいじめられていることに起因しているなら、イジメってどんだけつらいものだったか。初めて理解した。してしまった。それから、急に自分もいじめられなくない、仲間はずれにされたくないと思った。
その学校はいろいろあり、一学期で転校した。なので、彼とはそれ以来あってない。そして次の学校ではとにかくいじめられないようにと振舞った。それからはうまくいった。その後はいじめられた経験はない。その経験で好き勝手なことをしている割にはいまだに仲間はずれにされるのが怖い。それが今でも夢にでてくるようなトラウマの経験である。
かれはどうしているだろうか?お約束の展開では中学生あたりで急激にグレて立派な不良になったかもしれない。もしくは、普通のどこにでもいるオッサンになっているかもしれない。
ただ、今でもあの日のことは強烈に覚えている。ものすごく楽しそうなテーブルとそのほんの片隅で彼とお母さんと自分で祝ったささやかでさみしい誕生パーティを。俺はとんがり帽子をかぶりながら。