個人の能力差があるのはプログラマだけじゃないわけで

 みんな知っていると思うが、プログラマの生産性については大きな幅がある。よく引用されるのは、ブルックスの著書『人月の神話―狼人間を撃つ銀の弾はない (Professional computing series (別巻3))』の中での記述である。また、それを定量的に調査した研究としては、サックマンの論文があり、「個人の能力差は28:1」であるという話がある。*1これを理由に、プログラマがいかに特異な職業であるかという事がよく言われているが、単に個人の能力差が大きく開く行為はほかにいくらでもある。

 私の経験で言えば、「アイスホッケーにおけるゴールの生産性の観点で言えば、個人の能力差で500,000倍ぐらいの開きがある」と断言できる。私が所属しているチームは神奈川県3部という、まあ普通のチームなわけである。なのになんでかわからんのだが、「元スイス代表」のアンディ(over 40)が入部してきた。なんていうかアンディうますぎ。もちろん、全然本気なんか出さないし*2。そして、自分がゴールすることはせずに、相手から軽くパックを奪い、みんなに目の覚めるようなパスを出す。俺らはただスティックを振るだけでゴールできる。そんなプレイを彼は淡々と続けていた。一度だけ、うちのチームが、運悪く神奈川で最も強いチームとトーナメントで戦う羽目になった時だけ、彼の本気を見たことがある。相手は、西武やコクドといった元日本リーグ出身者が多く在籍しているチームだったのだが、そんな彼らでもアンディの本気には歯が立たない。アンディは170チョイのどちらかといえば小柄な人だったのだが、それより遥かに大柄な相手のプレイヤをなぎ倒すは、つぶすは、リンクの外に追い出すは、えらいことになっていた。当時20チョイだった俺は、この40超えたおっさんは何者だと唖然としてのを覚えている。結局、普通ならゴールどころか、シュートすら打てない相手に、負けはしたものの彼の力だけで2ゴールぐらいあげたはずだ。そんなアンディと俺のゴールの生産性は明らかに500,000倍ぐらいあっただろう。
 ほかにも、なぜかわからんのだが*3、うちには多数のプロ野球選手を輩出した横浜商業を卒業し、甲子園にも出たことのある人が何人も在籍していた。この人たちの運動神経は半端じゃない。昔、私が5年目ぐらい、彼らが始めて半年ぐらいのときに、運悪くキーパがこなくて試合ができなくなりそうだったことがある。その時、彼らの先輩肌の人が、とある後輩に「お前はショートだったんだから球とるのうまいだろ、だからキーパやれ」の一言で、キーバが決まった。さすが体育会つながり。しかし、そのキーパは、まだ全然滑れないレベル。なのに、キーパとして取る取る。もう反射神経とガッツが全然俺とは違う。結局めちゃめちゃシュート打たれたけどほとんどゴールをとられなかったはずだ。そんな彼と俺のホッケーセンスの差もやはり、50,000倍ぐらいあったろう。その後1,2年で軽く俺は抜かれてしまった。
 つまり、個人差があるというのはどんな職業でも同じなのだが、プログラマではそれが非常に問題視されるのはなぜだろうか?やはり、その差が全然評価に反映されないということに尽きるだろう。たとえば、俺とアンディが同じ時間氷にのっているから、同じ給料ね、という話だったら、そりゃアンディはぶちきれますよ。けど、そういうことが、実際まかり通っているんだよね。なんでだろ。ひとつはこの世界、勝負がゴールをたくさんとった人の勝ちってことになってない感じなんだよなあ。なんていうか。

*1: H. Sackman, W. J. Erikson, and E. E. Grant "Exploratory Experimental Studies Comparing Online and Offline Programing Performance", Communications of the ACM Volume 11, Issue 1、ただし、この調査を疑問視している研究もある。

*2:なぜなら、そんなことしたら周りがみんな怪我するから

*3:なぜだがわからんのだがと2回書いているが、理由は明らかでチームの雰囲気。社会人チームということで多彩な人があつまり、目的も単に勝利だけでなくて楽しみもというところがある。こういったばらばらの人、ばらばらの目的意識をもった人たちをずーっと引っ張ってきたのが、Kキャプテン。会社に入って10年以上たつが、「リーダーシップ」という観点でこの人より尊敬できる人を見たことはない